【発表要旨】
宮澤賢治は、大正七年(1918年)に得業論文(現在の卒業論文)を提出し、岩手大学農学部の前身である盛岡高等農林学校を卒業した。2018年は賢治が得業論文を提出してから100年の節目となる記念すべき年である。講演においては、「腐植質中ノ無機成分ノ植物二對スル價値」と題する賢治氏の得業論文の構成、および、目的や結果・考察に関する解説を行い、賢治の論文には、土壌学、肥料学、植物栄養学、さらには、生化学や酵素学といった当時の国内外の最新の知見が盛り込まれていることを説明した。また、賢治の得業論文においては、自らの実験結果と考察に基づき、岩手の不良土壌を改良するための具体的な方策が記載されていることについても注目すべきであることを示した。加えて、得業論文の論理展開に見られる賢治の考え方の特徴を明らかにし、賢治の得業論文の読解が、童話等の他の作品の理解にも繋がる可能性を指摘した。